11 「夢」17WORD 『P11、夢 』 眩いばかりの練成光が治まり、周囲は静けさに支配される。 そして、固唾を呑んで見ていたロイの目の前で、 ゆっくりとエドワードが起き上がる。 「エドワード!!」 堪らずに名前を呼ぶと、エドワードが焦点の定まらない視線を巡らせ、 ロイを視界に納めると、華が綻ぶような笑みを見せる。 そして、ゆっくりと自分の取り戻した手足を不思議そうに見つめると、 突如に目覚めたように、アルフォンスの姿を探し出す。 「アル! アルフォンスー!」 煙幕の様に上がる煙が視界を邪魔して、よく見渡せない。 そんな中を必死に目を凝らしながら、自分のたった一人の家族を 死に物狂いで探そうとする。 「兄さん・・・、僕はここだよ」 弱く掠れてはいるが、聞き間違える事のない弟の返事に、 エドワードが狂喜して、そちらの方向へと走り出す。 そして、横たわるアルフォンスの姿を確認すると、 エドワードの大きな目が、さらに見開かれ、そこから、大粒の涙を 溢れさせる。 「やっと・・・、やっと戻れたんだな、俺たち」 壊れ物に触れるように、そっと優しくアルフォンスの頬を撫でると、 エドワードは、堪えてきた思いを溢れさせる。 兄弟の感動の再会を、ロイは感無量な気持ちで見つめていた。 そして、ゆっくりと、二人の再会を邪魔しないように近づいていく。 「おめでとう、エドワード。 そして、アルフォンス君」 「大佐・・・」 いつも憎まれ口を叩いてくる、生意気さも、今日は影を潜めて、 心からの笑顔をロイに向けてくる。 「よくやったな、エドワード」 そうロイが褒めてやると、エドワードは頷きながらロイにしがみ付いてくる。 ロイも抱きしめ返してやりながら、エドワードの喜びを、一緒に噛み締めていく。 長かったのはエドワード達だけではない、エドワードを愛しいと思っているロイにとっても 同様に、辛く長い日々だった。 自分の傍らにずっとと願って、身体だけでなく心もと欲し続けてきたが、 エドワードにとってロイは、いつもアルフォンスの次でしかなかった。 彼らの目的が叶うまでは、それでも良いと自分を慰めてきたが、 これで漸く、足かせを外せたエドワードと、自分の願いを叶えていける。 ロイは心底、ホッと安堵し、これからの自分達の未来に夢を馳せる。 ロイの胸に顔を伏せていたエドワードが、にこりとロイが見たこともないような 笑みを浮かべて、ロイに告げてくる。 「大佐・・・、ロイ。 今までありがとうな。 あんたが居てくれたから、俺たちここまでこれたんだ」 心からの感謝を込めて、エドワードがロイに告げてくる。 「いいや、ここまで来たのは君たちの力だよ。 私がした事は、ほんのきっかけを与える事位だったさ」 そうロイが、自分の本音を告げると、 エドワードは、ゆっくりと横に首を振る。 「いいや、あんたが俺を生き返らせてくれた。 そして、俺らが元に戻る道を示唆してくれた。 あんたは、俺らの大恩人だ。 何も返せないままなのが心苦しいけど、 あんたの夢が叶うことを願ってる」 それだけ言い終えると、エドワードはゆっくりとロイから身体を離し、 傍で控えていたアルフォンスの手を取る。 「エドワード?」 ロイは、込み上げてくる不安を押し込めるように、 無理やりに笑顔を作って、エドワードに問いかけるような眼差しを向ける。 「じゃあ、俺ら行くな。 あんたも、頑張ってくれよ。 あんたなら、きっと夢を手にする事が出来ると信じてるから」 そして、アルフォンスと手を取り合って、嬉しそうに微笑みあった兄弟は、 ゆっくりと、ロイに背を向けて歩き出す。 「どういうことだ、エドワード! 何故君が、去っていかなくてはならないんだ」 衝撃に怒鳴りつけるように問いかけるロイに、 エドワードは不思議そうな表情で、振り返る。 「なんでって・・・、だって俺ら身体を取り戻したんだぜ? 軍も辞めてるし。 ほら、だってアンタの手にあるのは 俺の銀時計だぜ?」 エドワードの言葉に、ロイは茫然と自分の手の中の物を見る。 自分のものよりは、やや新目の時計は蓋が開かず、 確かにエドワードの物のようだ。 「いつのまに・・・」 「じゃあな、ロイ・・・じゃなくて大佐。 今までありがとうな」 朗らかに微笑んで、エドワードは再度踵を返して歩き去っていく。 「まっ、待ってくれエドワード! 私は君を愛しているんだ! 行かないで、このままずっと傍に居てくれ」 本の数刻まで、互いの未来を信じて夢を馳せていたのに、 何故、こんな事になっているのだろう。 ロイは、混乱と惑いの中も、エドワードに呼びかけ続ける。 「君は、君は! 私を愛してくれていたのではなかったのか!?」 胸が張り裂けそうな思いの叫びに、離れていたエドワードが振り返る。 「俺があんたを? 何を言ってんだよ。 俺とあんたは、等価交換の上での関係じゃないか」 おかしな事を言う人間だなと言うように、苦笑を浮かべて エドワードが言い切ると、その後は、いくらロイが呼びかけ続けても、 振り返りもせずに去っていく。 「待って! 待ってくれ!」 そう叫ぶと、ロイはガバリと起き上がる。 はぁはぁと荒い息を付きながら、胸を襲う焦燥感に、 この歳になって有り得ない事だが、涙が滲みそうになる。 そして、ゆっくりと周囲を見渡すと、 まだ、夜半の静けさが漂う、自分の部屋を確認して、 ドッと脱力感に襲われる。 「夢・・・か」 溢れてきそうな哀しみと涙をやり過ごそうと、 手の平を目頭にあてる。 「ロイ・・・、どうかしたのか?」 遠慮がちに声をかけてきたのは、その横で寝ていたエドワードだ。 この前に風邪をひいて、ダウンしていたロイを看病していたのだが、 完治した今も、何やかやと理由をつけては、エドワードに逗留をさせ続けている。 肩に置かれた手の平の温もりに、ロイは縋るように手を掴むと、 そのまま、抱き込んでしまう。 「おっおい! どうしたんだよ、いきなり。 また、体調でも悪くなったのか?」 「黙って・・・。 すまないが、君を感じさせてくれ」 仕方ないなという風に嘆息を付くと、エドワードはロイの身体に腕を回す。 ゆっくりと自分を確認するように動かされる手が、段々と身体の熱を燈していく。 熱情のまま自分を抱く男に、エドワードは成す術もなく翻弄され続ける。 室内には、荒い息を付くロイの呼吸と、掠れた喘ぎ声を上げ続けるエドワードの声が 白々と夜が明けるまで響き渡る。 翌朝、激しすぎた情事のせいで、ベットから起き上がれない状態になったエドワードを 甲斐甲斐しく面倒を見るロイがいる。 「一体、何の夢を見たんだよ」 被害を被ったエドワードが、不服そうにロイに問いかける。 「対した夢じゃないさ」 そう言いながらも、表情を暗くする男に、 エドワードは、低い声で怒りを唸り上げる。 「たいした事がないってぇ~? じゃあ何か、俺は、そのたいした事もない夢のせいで、 寝る間際まであんたに抱かれてて、その後も起された上に、 あんたの好き勝手を、朝まで受け続けたってわけか~?」 いい加減にしろよ、こらぁ!と続きそうな険悪な雰囲気を漂わせて、 エドワードが、答えるまで許さんと凄むと、渋々ながら、 ロイは自分が見た夢の内容を話し出す。 「はぁ~? なんじゃその夢は?」 エドワードの余りな反応に、ロイも罰が悪そうな顔をする。 「君はそう言うがね。 冷たく言い切って去っていく君の酷さは あんまりじゃないか」 「っても、それ夢の俺で、今の俺じゃないもん」 「いいや、君は心の中で、どこかそう思っているところがあるんじゃないのか。 だから、あんなに簡単に去っていけるんだよ」 夢と現実をごちゃまぜにしながら、ロイはぶつけ切れなかった不満を 目の前の相手にぶつける。 「馬鹿らしい」 フンと鼻で笑いきるエドワードに、ロイはムッとしたように 問い詰める。 「どうして、そう言い切れるんだね? 君は、目的が叶っても、軍にい続けるとでも?」 そんな微かな期待は、エドワードの言葉によって、 あっさりと砕かれる。 「いいや、目的が叶ったら、俺は軍は抜けるぜ」 「やっぱり・・・。 君はやはり、そうして去っていく気なんだな」 暗い未来が胸を霞め、『なら、そうなる前に・・・』と凶悪な思いが 頭に浮かんでくる。 夢を叶えてエドワードが去って行くと言うのなら、 ロイは、どんな手を使ってでも、それを妨害するだろう。 その障害がアルフォンスだと言うのなら、ロイはエドワードに恨まれても、 アルフォンスを潰すつもりだ。 ロイにとって大切なのはエドワードであって、弟ではない。 憎まれ、恨まれても、ロイにはエドワードを手放すことなど 出来そうもないのだ。 「なんだよ? あんただって、軍にいつまでもいるなって、言ってたじゃないか。 あれは、嘘だとでも言うのかよ?」 「確かに・・・君に軍に居てもらいたくはない。 いつ何時、招聘があるかわからないんだ。そんな場所で、 危険に晒させるわけにはいかない」 「じゃあ、辞めてもいいんじゃないの?」 おかしな事を言うな~と首を捻るエドワードに、 どう言えば、この胸の燻りを解ってもらえるのだろう。 困り果てたように、ロイが悄然と呟く。 「君が軍を去れば、私と君を繋ぐものもなくなる。 君があっさりと軍を抜けると言えるのも、実は、私とも縁を切りたいと 思っているからじゃないのか?」 ロイの言葉をしばらく考え込んで、エドワードはガリガリと頭を掻く。 「はぁ~、だから、馬鹿じゃねえのって言うんだよ。 良く聞け。 確かに俺は目的が叶ったら軍は辞める。 もともと、それだけの為に入ったんだからな。 でも、それは軍が嫌だからってだけじゃないぜ。 軍務を必死にこなしている皆に申し訳ないからだ。 俺みたいな中途半端な決意しかしていない人間がいちゃー、 真面目に取り込んでる奴らに悪いだろ? それと、軍を抜けたら、何であんたと関係を切る事になるんだよ? なんだかんだ言いながら、本当はあんたの方が、俺が邪魔になってんじゃないの?」 意地悪げに言われた言葉に、ロイが驚いたように見上げ、 慌てて首を横に振る。 「私が?君と? そんな馬鹿な事があるわけないだろ? 君が邪魔になるなんて事は、多分・・・生きている限り有り得ない」 そう真摯に言い切られた言葉に、エドワードが大きく頷く。 「なら、別に軍を辞めてもいいんじゃないの? 俺は、軍人だからあんたと付き合ってるんじゃないんだぜ? 軍の高官だとか、英雄だとかは関係ない。 ロイ・マスタングという個人の人間と付き合ってるんだ。 なら、縁は互いが切りたいと思わない限り続けていけるだろ? あんたも、俺が錬金術師じゃなくなったら、俺とは縁を切るなんて事は ないだろ? それと同じだろ」 ニカリと笑って告げられた言葉に、ロイは茫然とその言葉を反芻する。 出来が良いはずのおつむが、鈍そうに理解を遅らせている。 そして、漸く理解が出来ると、喜びと感動で震える身体で、 エドワードを強く抱きしめる。 「ああ・・・ああ、そうだな。互いの関係は、それぞれが努力して 続けていくものだ。 なら、私も君に捨てられないように、 精進しなくてわな」 そう言うと、やっといつものロイらしい笑みを浮かべる。 「そうだぜ。変な夢を見てる間があんなら、 もっと、現実をしっかりと繋ぎとめておけよ」 ふてぶてしい程のエドワードの態度に、それに負けないロイも、 にやりと悪ぶった笑みを浮かべて、囁く。 「それは、ベットへのお誘いかな?」 瞬時で、顔を真っ赤にしたエドワードが、怒りか羞恥心の為か、 わなわなと震えて、口をパクパクさせている。 「ったく、落ち込んでいるかと慰めれば付け上がりやがって。 俺は当分、しなくて十分な気持ちで一杯なんだよ!」 「おやおや、若い者の言葉とは思えないな。 私が君の年の頃には、使い果たすだけ使っても、 まだまだ、いけていたがね」 その言葉に、むかっと表情歪めて、エドワードが回されていた手を抓り上げる。 「へぇへぇ、どうせ、色欲だけのあんたに、勝てるわけがありませんよ。 それとな、夢の分析だけどな。 専門外だけど、ちょっとは解るぜ」 「ほぉ、それは一体?」 興味を引かれたように、顔を近づけてくるロイに、 エドワードは素早く鼻を掴み上げると、捻り上げながら叱り付ける。 「それは、仮病を使って引き止めてるあんたの罪悪感が見せたんだよ! いい加減にしないと、まじに愛想付かせて出て行くぞ!」 鼻を捻り上げられた痛みで、涙を浮かべたロイが、 エドワードに平謝りをしながら、許可した出立は、その翌日だった。 夢は人の憧れや願望を映す。 そして、恐れや不安も増長させる。 だから、今日もしっかりと、平凡だったり非凡だったりはするが、 自分の日々を生きていくのだ。 夢は寝ているときに見るもので、願いは自分の手で掴み取るものなのだから。 [あとがき] 久しぶりの17WORDでした。 忘れた頃にふと思い出したように・・・。 しかも、またしても情けないロイ路線になってるし。 まぁ、たまには気分を変えて頂いて。 ↓面白かったら、ポチッとな。 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|